愛の標識

これが多分 運命だったんだよ

彼とワンルーム (深夜の妄想一本勝負的な)

 

 

「のん、」

そう声をかけると小さく体を動かして『ん、』と丸まった。

初めて出会ったのはいつだったか。彼はいつの間にかまた大きくなって、成長期、なんだなと思う。
ワンルームではもう狭すぎる。



転がりこむように、始まった2人暮らし。
これまでの彼のことも、今の彼のことも私はほとんど知らない。

「のぞむ、今日は帰り遅いから」

そう言って立ち上がると、寝惚け眼で、そうなんー?ともぞもぞ動く。
そのまま『いってらっしゃーい』と間抜けな声が聞こえて、どうやらまた眠ってしまったようだ。





のぞむ、という名前と、関西出身であること、
私よりもだいぶ歳下であることくらいしか知らない。

私が仕事に行っている間、彼が何をしているかも知らないし、
なんなら時々、帰ってこない日だってある。


一度だけ、何をしているのか気になって聞いてみたことがあったけれど、
『んー?それは秘密やで?』とのらりくらりとかわされてしまった。それから私は、何も聞けなくなった。
だって、それ以上触れたら彼がふらりと居なくなってしまうのではないかと思ったのだ。




だけど、そんな私の心配をよそに、彼は未だに私と生活を共にしている。


“それってどうなの?まぁいいけどさぁー”
職場の先輩からは散々怪しいと言われ続け、最近はもはや呆れられている。
それでも、私は彼のいないワンルームにはもう戻れないのだ。







―これから帰るね?―

簡潔にメールを送ると、すぐに既読がついて、

―のんちゃんたこ焼き食べたいなー=^_^=―


「もう、(笑)」
―いつものでいい?―



そうやって、結局私は彼をずぶずぶに甘やかして、
それでいて自分自身の寂しさを埋めているだけなのはわかっているけれど…





「ただいまー」

『遅いー!のんちゃん待ちくたびれたわー』

お腹を空かせて、たこ焼きやー!と目を輝かせる姿はどうみても大型犬そのもので、
「なんか犬みたい(笑)」と思わず笑うと『可愛いやろ?』と後ろから抱きつかれた。

「のん、重たいー」
『あ、てかこんなんしてる場合ちゃうねん!はよこっち来て!』

ガバッと勢いよく体を引き剥がすとグイグイと背中を押される。


「え、何?」
戸惑う視線の先に、



『はっぴーばーすでー!』

2つ、いちごのショートケーキ。

今日誕生日やろ?と彼が無邪気に笑う。

「覚えてたの?」
『おう!のんちゃん偉いやろ~?はい、あーん。』
不覚にも少し泣きそうになった。ほんと罪な男だ。


「…ありがと」




これだから、もう戻れないのだ。

 

彼のいないワンルームなんて、

 

 

 

 

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親友へ。